釣枕
![](http://img01.naturum.ne.jp/usr/t/o/p/topfishing/app-096676800s1716476545.jpg)
ルアーを投げながらこう考えた。
クロスキャストすれば角が立つ。
竿を置いておけば盗まれる。
人気の釣り場は窮屈だ。
とかくに人の世は釣りにくい。
釣りにくさが高じると、安い所へ移動したくなる。
どこへ行っても釣りにくいと悟った時、釣具が生まれて、動画が出来る。
釣り場を作った者は神でもなければ鬼でもない。
やはり、向こう3メートル両隣にちらちらするただの釣人である。
ただの釣人が作った釣り場が釣りにくいからとて、移動するスポットはあるまい。
あればボウズを喰らうだかりだ。魚のいない釣り場は人のいる場所よりも尚釣れにくかろう。
人の世が釣りにくければ、釣りにくいところをどれほどか寛げて、束の間の釣行を束の間でも釣り良くせねばならぬ。
ここに釣具メーカーという天職が出来て、ここにテスターという使命が下る。
凡ゆる釣りのメディアは釣人の欲を刺激し、釣人
の妄想を豊かにするが故に尊い。
釣りにくき世から釣りにくき煩いを引き抜いて、ありがたい魚を目の当たりに写すのが雑誌
である。動画である。
或はYouTuberとプロである。
細かに言えば釣らないでも良い。
ただ釣具の紹介をすれば、そこにファンも出来、金も湧く。
ルアーを水に落さぬとも、ラトル音は胸裏に起る。
エアブラシはルアーに向かって塗沫せんでもレッドヘッドのカラーリングは自ずから心眼に映る。
ただおのが釣具を披露して、霊台方寸のカメラに澆季混濁の釣り業界を清くうららかに収め得れば足る。
この故に、無名のプロには一尾なく、無職のYouTuberには知識はなくも、かく小遣いを稼ぎ得るの点において、かくニートを解脱し得るの点において、かく釣り業界に出入し得るの点において、またこの不動不二の黒歴史を建立し得るの点において、我利私欲の羈絆を増長し得るの点において、ーー水を抜かれた池よりも、放置されたフグよりも、あらゆる外来魚よりも哀れである。
世に住む事二十年にして、釣るに甲斐ある生き物と知った。二十五年にして明暗は表裏の如く、日の当たる所にはきっとシェードが出来ると悟った。
三十の今日はこう思うている。ーー水深の深きとき魚いよいよ深く、ルアーの大なるほど魚も大きい。
これを切り離そうとすると釣果が持てぬ。片付けようとすれば理が立たぬ。
金は大事だ。釣具が増えれば貯金も心配だろう。
釣りは楽しい。楽しい釣りが積もれば、釣れなかった昔がかえって恋しかろ。
メーカーの肩は数百万人の釣人の足を支えている。背中には重いヘイトがおぶさっている。
うまい魚も食わねば惜しい。少し食えば飽き足らぬ。存分食えば魚が減る。……
ここまで余の考えが漂流してきた時に、余の手元に突然ゴゴン!という衝撃が走った。
終