釣りのお爺さん
この間ホームリバーへ釣りに行った時の事。
ルアーのドリフト具合を試しながら下流へ降って行った際に、草むらを隔てた向こうで何やら気配と物音がする。
あれ、他にもアングラーがいたのかな?と思っていたら突然
ヒョコ!
っとお爺さんの顔が。
ちょっとビックリしましたが、向こうもビックリしたようで、慌てた様子ですぐ引っ込んでしまいました。笑
まぁ人がいるならあまり邪魔しないようにと気にせず釣りを続ける。
しばらくするとヒュン!………ドボン!!とキャストの音が。
明らかにルアーではなく、鯉や鮒用の仕掛けを投げている様子。
草むらを境に護岸が切れて、向こう側は河原の砂利地になっている場所なので、腰を下ろしてジックリ待つのに適しているのだろう。
一度護岸を登り、上の道を通れば特に顔を合わせずに飛び越していけるんだけど、どんなタックルや仕掛けなのかなーとなんとなく興味が湧いてきたので、草むらを掻き分けて砂利地に立つ。
するとやはり振り出しのロッドを3〜4本置き竿して、お爺さんが折り畳み椅子に腰掛けて新聞を読んでいた。
齢六十〜七十くらいだろうか。
ムツゴロウさんを彷彿とさせる小柄な老人であった。
普段、この川で餌釣りをする人は滅多に見ない。
大体はバスアングラーなのでちょっと物珍しかった。
まぁでもせっかくお互い1人で釣りに来てるんだし、タックルを見たかっただけで邪魔をするつもりはない。
お爺さんの後ろが空いてたので
「すみません、後ろ通って良いですか?」
と声を掛けると、聞き間違えたのか
「あ、今下流側に2本投げちゃってるから今竿上げるね!」
と慌てた様子で返事がきた。
「あ、いえいえ!もっと下流でやるので全然そのままで大丈夫ですよ!」
とつられて慌てて返す。
「ではちょっと後ろ通らせて頂きますね」
と言いながらお爺さんの後ろを通過し、会釈して下流へ降った。
実際お爺さんが投げていたポイントはいつもなら空いていれば一応打つけど、今までバスが釣れた事のない場所だったので問題はないのだ。
(もちろん釣れるポイントでも先行者がいれば何の不満もなく違うポイントへ行くけど。)
そして本命ポイントに到着。
そこまでうんと離れている訳ではないけれど、お爺さんの仕掛けはここまでは来ないのでOK。
しかし近頃このポイントはウンともスンとも言わない。
季節が変わってバスが居着かなくなったのか……?
しばらく粘り、そこから更に下流へ降りながら反応を探っていく。
なんとなーく良さそうなポイントを見つけ、アレやコレやとルアーを投げ散らかしていく。
相変わらず反応はない。
ちなみにお爺さんの方からも釣れているような音は聞こえない。
既に16時を過ぎ、辺りは徐々に暗くなってきている。
とそこに先程のお爺さんがこちらへ向かって歩いてくる。
どうしたんだろう??と思ったが
「さっきの竿、もう上げたからね。こっちでやって良いよ。」
とわざわざ伝えてに来てくれたのだ。
僕は思わず感激して、厚くお礼を言った。
ついでに
「釣れました?」
と聞くと、さっぱりダメだとの事。
たまにここで鯉を狙っているらしい。
鯉はいつもそこいらを泳いでいるが、居ても釣れないとなると鯉釣りも奥が深いのだろう。
昔野池でバイブレーションやスピナベ、トップなどで釣った事があるけれど、確かに川の鯉は釣れた事がない。
お爺さんは完全に暗くなるまで竿一本を置いてのんびりしていたけれど、しばらくして
「じゃあ、お先するわ。頑張ってね。」
と言って帰っていった。
結局お互い最後まで釣れなかったが、何だかホッコリとした気分で帰路に着いた釣行だった。